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【第1回】部活動地域展開とは?「地域移行」からの変更点と制度の全体像

📌 この記事でわかること

  • 「地域移行」から「地域展開」へ名称が変わった背景と意図
  • 令和8年度(2026年度)から令和13年度(2031年度)までの改革スケジュール
  • 自治体・学校・保護者など各立場で担う役割の違い
  • 「部活動がなくなる」など広まりがちな誤解の正しい理解
部活動地域展開という言葉を耳にする機会が増えたものの、「結局、何がどう変わるの?」と感じている方は多いのではないでしょうか。

令和7年度(2025年度)5月に公表された「最終とりまとめ」では、従来の「地域移行」という表現が「地域展開」へと改められました。この変更には、単なる言い換え以上の重要な意図が込められています。

本記事では、制度の基本的な仕組みから令和13年度までのスケジュール、そして自治体・学校・保護者それぞれの役割まで、全体像をわかりやすく整理します。「自分には何が関係するのか」を把握し、次の一歩を踏み出すための出発点としてご活用ください。

なぜ「地域移行」が「地域展開」に変わったのか?その背景を解説

令和7年度(2025年度)5月、スポーツ庁と文化庁の有識者会議は「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議『最終とりまとめ』」を公表しました(出典:スポーツ庁「最終とりまとめ」)。

従来使用されていた「地域移行」という用語は「地域展開」へと変更されています。この変更は単なる言葉の置き換えではなく、制度設計の根本的な考え方の転換を示すものです。

以下では、その背景と意図を詳しく見ていきましょう。

「移行」が招いた誤解と現場の混乱

令和4年度(2022年度)頃からスポーツ庁が「地域移行」という言葉を使い始めた当初、現場ではさまざまな誤解が生じていました。

最も広まった誤解は「学校から地域へ完全に移す」というもの。「移行」には「AからBへ移る」というニュアンスがあるため、保護者の間では「部活動がなくなる」という不安が急速に広がりました。

教員からは「生徒の活動を丸投げされるのではないか」という懸念の声が上がり、自治体担当者は「受け皿がないのに移行を迫られている」と感じるケースも少なくありませんでした。こうした混乱は、用語そのものが誤解を招きやすい表現だったことに起因しています。

「展開」に込められたメッセージとは

「地域展開」という新しい表現には、重要なメッセージが込められています。

🤝 協働の姿勢

学校と地域が「どちらかに任せる」のではなく、「一緒に取り組む」という考え方を明確にしたものです。部活動の運営を地域に丸投げするのではなく、学校と地域が連携しながら子どもたちの活動を支えていく——その姿勢が示されています。

📈 段階的な進め方

全国一斉に切り替えるのではなく、地域の実情に応じて柔軟に展開していくことが強調されました。都市部と地方では指導者の確保状況や施設環境が大きく異なるため、画一的な対応ではなく、それぞれの地域に合った進め方が認められています。

✨ 選択肢の拡大

学校部活動を廃止するのではなく、地域クラブという新たな選択肢を「加える」という発想が根底にあります。生徒にとっては、従来の学校部活動に加えて、地域で活動する選択肢が増えることになるのです。

学校部活動は「なくなる」のではなく「広がる」

「地域展開」の本質を一言で表すなら、「学校部活動の廃止」ではなく「活動の場の拡張」といえるでしょう。

学校部活動は引き続き存続します。希望する学校や生徒は、これまで通り学校での部活動に参加可能。そこに、地域クラブ活動という新たな選択肢が加わる形です。

これまでの「学校だけで抱え込む」体制から、「地域全体で支える」体制への転換が図られます。

生徒にとっては、学校の枠を超えて多様な活動に参加できる可能性が広がります。専門的な指導を受けたい生徒、複数の種目を体験したい生徒、学校にない種目に挑戦したい生徒——それぞれのニーズに応じた活動が選べるようになっていくのです。

令和8〜13年度の改革スケジュールは?ロードマップと到達点

令和8年度(2026年度)から令和13年度(2031年度)までの6年間は「改革実行期間」と位置づけられています(出典:スポーツ庁「最終とりまとめ」)。

この期間は前期と後期に分かれており、それぞれに異なる重点施策が設定されています。段階的に改革を進めていく全体像を把握しましょう。

前期・後期で異なる重点施策の全体像

前期:令和8〜10年度(2026〜2028年度)は、体制整備の期間です。

この3年間で求められるのは、まず協議会の設置と推進計画の策定。自治体ごとに関係者が集まる協議会を立ち上げ、地域の実情に応じた推進計画を作成します。

指導者の確保・育成も本格化し、地域で部活動を支える人材の発掘と研修が進む予定。休日の地域展開が優先的に推進され、現時点で着手していない自治体も、この前期の間に確実に休日の地域展開に着手することが求められています。

後期:令和11〜13年度(2029〜2031年度)は、本格展開の期間となります。

前期の成果を踏まえ、平日の地域展開への段階的な拡大が検討されます。持続可能な運営体制の確立に向けて、財源の安定確保や指導者の処遇改善なども進む見込み。全国的な普及・定着を図り、どの地域に住んでいても子どもたちが多様な活動に参加できる環境を目指します。

前期と後期の間には中間評価が行われ、そこで平日の改革についてあらためて取組方針が定められます。「いきなり変わる」のではなく「段階的に進む」という点を理解しておくことが大切です。

令和13年度(2031年度)に目指す姿

改革実行期間の最終年度である令和13年度には、どのような状態を目指しているのでしょうか。

まず、休日の部活動は原則として全ての学校で地域展開が実現している状態。休日に活動したい生徒は、地域クラブで専門的な指導を受けながら活動できるようになります。

一方、平日の地域展開は地域の実情に応じた柔軟な対応が取られます。すべてを一律に地域へ移すのではなく、各地域で最適な形を模索していく方針です。

生徒は「学校部活動」と「地域クラブ活動」を選べる環境が整います。学校での活動を希望する生徒、地域での専門的な指導を希望する生徒、両方を組み合わせたい生徒——それぞれの希望に応じた参加形態が可能になるのです。

教員の時間外勤務は大幅に削減される見込み。休日の部活動指導から解放されることで、授業準備や教材研究に充てる時間が確保できるようになります。

地域の指導者が安定的に活躍できる仕組みも整い、適切な報酬や研修機会が提供される体制が構築されていく予定です。

部活動地域展開の目的は?ゴールと関係者の役割

部活動地域展開は、単に活動の場所を変えるだけの改革ではありません。この制度が目指す目的と、それを実現するために各関係者がどのような役割を担うのかを整理します。

少子化対応・教員負担軽減・活動機会確保という柱

部活動地域展開が目指す目的は、大きく分けて以下のとおりです。

👶 少子化への対応

生徒数の減少により、単独の学校では部活動を維持することが難しくなっています。サッカー部で11人が集まらない、吹奏楽部で必要なパートが揃わない——こうした状況が全国各地で起きているのが現状。複数の学校の生徒が合同で活動できる仕組みを整えることで、少子化が進んでも子どもたちがやりたい活動を続けられる環境を作ります。

👨‍🏫 教員の負担軽減

部活動指導は、教員の長時間労働の大きな要因となっています。休日返上での練習や大会引率、専門外の競技を指導するストレスなど、教員にとっての負担は小さくありません。地域の専門家に指導を委ねることで、教員が本来の教育活動に専念できる環境を整えることが目標です。

⚽ 生徒の活動機会確保

住む地域や通う学校によって、参加できる活動に格差が生じている現状があります。ある学校にはバスケットボール部があるが、隣の学校にはない——そうした状況を解消し、より多くの生徒が多様なスポーツ・文化活動に接点を持てるようにすることが目指されています。

これらの目的は、相互に関連しながら一体的に実現されていきます。

立場別に見る「自分ごと」としての関わり方

部活動地域展開には、多くの関係者がそれぞれの役割を持って関わります。ここでは各立場での関わり方を簡単に説明しましょう。詳細は各専門記事で解説しています。

自治体は、推進計画の策定、協議会の運営、財源確保を担います。地域全体の方向性を示し、関係者をつなぐ司令塔としての役割が期待されています。

学校・教員は、地域クラブとの連携調整、生徒の活動状況の把握を行います。地域での活動に移行した後も、生徒の様子を見守り、必要に応じて地域クラブと情報共有することが求められます。

指導者は、専門性を活かした指導と、学校との連携を担う存在。単に技術を教えるだけでなく、生徒の人格形成にも配慮した指導が期待されています。

保護者は、活動の選択判断、費用負担、送迎対応などを行います。新しい仕組みを理解し、子どもにとって最適な活動形態を一緒に考えていくことが大切です。

地域クラブは、受け皿としての体制整備、運営の持続可能性確保を担います。生徒にとって安全で魅力的な活動環境を提供する責任があります。

施設管理者は、施設提供、利用調整、安全管理を行います。学校施設や地域の体育館などを効率的に活用できるよう協力することが求められています。

それぞれの立場で関わり方は異なりますが、全員が何らかの形でこの改革に関わることになります。

これだけは押さえたい!よくある誤解トップ5

部活動地域展開については、さまざまな誤解が広まっています。ここでは特によく聞かれる5つの誤解を取り上げ、正しい理解をお伝えしましょう。

誤解①「学校の部活動は完全になくなる?」

実際はそうではありません。学校部活動は存続し、地域クラブという新たな選択肢が加わる形です。学校での活動を続けたい生徒は、引き続き学校部活動に参加できます。「地域展開」という名称には、活動の場を「広げる」という意味が込められているのです。

誤解②「令和8年度から一斉に切り替わる?」

改革は6年間かけて段階的に進められます。前期3年間で体制を整備し、後期3年間で本格展開するスケジュール。地域の実情に応じた柔軟な対応が認められており、全国一律に同じタイミングで切り替わるわけではありません。

誤解③「保護者の費用負担が大幅に増える?」

費用負担については、支援制度や減免措置が設けられる予定です。自治体によって対応はさまざまですが、経済的な理由で活動を諦めることがないよう、公的負担と受益者負担のバランスが検討されています。具体的な費用や支援制度については、お住まいの自治体にご確認ください。

誤解④「地域に受け皿がなければ活動できなくなる?」

受け皿の整備と並行して改革が進められます。地域の実情を無視して強引に進めることはありません。受け皿が整うまでは学校部活動を継続するなどの対応が取られるため、すぐに活動機会がなくなることはないでしょう。

誤解⑤「教員は部活動から完全に離れる?」

希望する教員は、兼職兼業の制度を活用して地域クラブでの指導を継続できます。また、学校と地域クラブの連携調整役として関わる場合も。部活動指導に情熱を持つ教員が、その意欲を活かせる仕組みが用意されています。

まとめ

本記事では、部活動地域展開の基本的な仕組みについて解説しました。

📝 ポイントまとめ

「地域展開」とは、学校と地域が協働して子どもの活動を支える新しい形です。「地域移行」から用語が変わった背景には、学校部活動をなくすのではなく、活動の場を広げていくという考え方があります。

令和8〜13年度の6年間で段階的に改革が進みます。前期3年間で体制を整備し、後期3年間で本格展開を図るスケジュールです。休日の地域展開を優先的に進め、平日については各種課題を解決しながら進めていきます。

各立場で関わり方は異なりますが、全員が何らかの形で関係する改革です。自治体、学校、教員、指導者、保護者、地域クラブ、施設管理者など、それぞれの役割を理解し、協力していくことが成功の鍵となります。

「部活動がなくなる」などの誤解に惑わされず、正しい理解を持つことが大切です。まずはご自身の立場に関係する情報から理解を深めていくことをお勧めします。

本連載では、今後39回にわたって各テーマを詳しく解説していきますので、ぜひご自身の立場に近い記事からお読みください。

📢 次回予告

第2回では「【実施スケジュール完全ガイド】休日・平日の段階的移行はいつから?」と題し、具体的なスケジュールと先進事例を詳しく解説します。

参考文献

部活動の地域展開について、もっと知りたい方へ
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