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【第7回】小規模自治体の部活動地域展開戦略|広域連携・施設シェアリング・共同実証事業の進め方

📅 2025年1月 更新

この記事でわかること

  • 人口3万人以下の自治体が直面する部活動地域展開の構造的課題
  • 近隣自治体との広域連携で指導者・施設不足を解消する具体的な方法
  • 共同実証事業の申請で補助金を獲得し負担を軽減する進め方
  • 小規模自治体だからこそ発揮できる機動力と柔軟性の活かし方

部活動の地域展開を進めたいけれど、「うちのような小さな町で本当にできるのだろうか」——人口3万人以下の自治体で改革を担当されている方なら、一度はこう感じたことがあるのではないでしょうか。

小規模自治体では、指導者確保・施設確保・担当職員のマンパワーという3つの課題が同時に押し寄せます。都市部とはまったく異なるアプローチが必要です。しかし、小規模だからこそ「意思決定の速さ」「顔の見える関係」「柔軟な対応」という強みを発揮できる場面もあります。本記事では、広域連携・施設シェアリング・共同実証事業の3つの具体策を解説。結論として、小規模自治体でも広域連携を活用すれば持続可能な体制構築は十分可能です。「規模の小ささ」を弱みではなく武器に変える視点をお伝えします。

※用語について:本記事では「地域展開」という用語を使用しています。これは、2025年5月の実行会議「最終とりまとめ」で従来の「地域移行」から変更が提言され、同年12月に策定・公表された「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」(令和7年12月)にも正式採用されています。

小規模自治体が直面する3つの構造的課題とは?

人口3万人以下の自治体が部活動の地域展開を進める際に直面する課題は、都市部とは質的に異なります。ここでは、小規模自治体に共通する3つの構造的課題を整理しましょう。

小規模自治体が直面する3つの構造的課題
課題①:指導者の絶対数が足りない 地域内に競技経験者や有資格指導者の母数が限られており、「募集すれば集まる」という前提が成り立たない
課題②:活動場所の選択肢が限られる 学校数・体育館・グラウンドの総数が限られ、民間スポーツ施設も存在しないか遠方というケースがほとんど
課題③:担当職員のマンパワー不足 教育委員会は少人数体制で複数業務を兼務しており、専任担当者を置く余裕がないのが実情

指導者の絶対数が足りない

小規模自治体では、そもそも地域内に競技経験者や有資格指導者の母数が限られています。都市部のように「募集すれば集まる」という前提は成り立ちません。

とくにバレーボールやバスケットボールなどの団体競技では、指導者1名では対応が困難。教員の兼職兼業に頼ろうとしても、学校数・教員数自体が少ないため選択肢が狭まります。

この課題を放置すると、「指導者がいない競技は廃止」という結果になりかねません。生徒の活動機会を守るためにも、早期の対策が不可欠です。具体的な解決策は、次章の「広域連携」で解説します。

活動場所の選択肢が限られる

学校数が少ないため、体育館やグラウンドの総数が限られています。民間スポーツ施設も存在しないか、あっても遠方というケースがほとんどでしょう。

1つの体育館を複数の活動で共有する必要があり、スケジュール調整が複雑化しがち。冬季の屋外活動が困難な地域では、屋内施設の奪い合いが深刻化することもあります。

施設不足は「活動機会の減少」に直結し、生徒・保護者の不満につながりかねません。この課題への対策として、後述する「施設シェアリング」が有効です。

担当職員のマンパワー不足

小規模自治体の教育委員会は少人数体制で複数業務を兼務しています。部活動地域展開の専任担当者を置く余裕がないのが実情でしょう。

協議会運営、指導者調整、施設管理、保護者対応をすべて1〜2名で担当するケースも珍しくありません。業務過多により「やりたくてもできない」「手が回らない」状態に陥りやすくなります。

この課題を解決しないまま進めると、担当者が消耗し、事業が形がい化するリスクも。「共同実証事業」による負担分散が有効な対策となります。

広域連携で指導者不足を解消するには?3つのモデルを解説

単独自治体での指導者確保が困難な場合、近隣自治体との連携が現実的な解決策となります。広域連携には複数のモデルがあり、地域の状況に応じて選択・組み合わせが可能です。

※以下で紹介するモデルは、スポーツ庁が公式に標準化したものではなく、各地の実証事業や先行事例から導き出された実務上の選択肢です。実施にあたっては、自治体ごとの協議・合意形成が必要となります。
広域連携による指導者確保の3つのモデル
モデル①:近隣自治体との指導者シェアリング A町とB村で同じ指導者を共有し、曜日・時間帯を分けて巡回指導する方式。報酬は比例配分で負担。
モデル②:オンライン指導の部分活用 週3回の活動のうち1回は遠方の専門指導者がオンラインで技術解説・フォームチェックを実施。対面指導は地元の補助指導者が担当。
モデル③:民間スポーツクラブとの業務委託 近隣市町村に拠点を持つ民間スポーツクラブやスイミングスクール等への業務委託。指導者の質が担保され、保険・安全管理も委託先が対応。

近隣自治体との指導者シェアリング

A町とB村で同じ指導者を共有し、曜日・時間帯を分けて巡回指導する方式です。指導者への報酬は比例配分で負担するか、広域連携協定で一括管理する方法があります。ただし、報酬体系や交通費の配分方法などの具体的な運用は、自治体ごとに協議・調整が必要です。

成功のポイントは、活動スケジュールの事前調整と、移動時間・交通費への配慮。郡単位・圏域単位での連携協定を締結しておくと、調整がスムーズになるでしょう。

具体的な第一歩として、まず近隣自治体の担当者との情報交換会の開催をおすすめします。同じ悩みを抱える担当者同士で話し合うことで、連携の糸口が見えてきます。

オンライン指導の部分活用

すべての練習をオンライン化するのではなく、技術指導の一部をリモートで補完する発想です。

たとえば週3回の活動のうち1回は、遠方の専門指導者がオンラインで技術解説やフォームチェックを実施。対面指導は地元の補助指導者が担当し、オンライン指導者がアドバイスを提供します。

必要な環境はタブレット端末、Wi-Fi環境、動作撮影用の三脚程度。文化部(吹奏楽・美術等)では特に有効な場合があります。

民間スポーツクラブとの業務委託

近隣市町村に拠点を持つ民間スポーツクラブやスイミングスクール等への業務委託も選択肢の一つ。自治体が費用を負担し、民間クラブから指導者を派遣してもらう形式をとります。

メリットは、指導者の質が担保され、保険・安全管理も委託先が対応してくれる点。ただし、委託費用の予算確保が必要であり、地域クラブ育成の観点からは長期的な検討も欠かせません。

施設シェアリングを成功させるには?実務ポイントを解説

複数自治体で施設を相互利用する「施設シェアリング」も、小規模自治体にとって有効な戦略です。こちらも公式に標準化されたモデルではなく、各地の取組から得られた実務上の知見に基づく進め方です。

施設シェアリングの実務4ステップ
ステップ①:施設状況の一覧化 近隣自治体の施設状況を一覧化し、どの施設がいつ空いているかを把握する
ステップ②:相互利用協定の締結 利用料減免や優先枠の設定などを決定。利用料の負担方法や優先枠の配分は自治体間で協議
ステップ③:予約管理システムの導入 理想的には、予約管理のオンラインシステムを共同導入することで調整がスムーズになる
ステップ④:生徒の移動手段の確保 スクールバス活用、保護者相乗り、自転車圏内での活動設定等の選択肢を検討

進め方の第一歩は、近隣自治体の施設状況を一覧化すること。どの施設がいつ空いているかを把握します。

次に、相互利用協定を締結し、利用料減免や優先枠の設定などを決定。利用料の負担方法や優先枠の配分は自治体間で協議が必要です。理想的には、予約管理のオンラインシステムを共同導入できると調整がスムーズになるでしょう。

実際に、郡内複数町村で体育館を相互開放し、生徒の移動にスクールバスを活用している事例もあります。スポーツ庁「令和5年度実証事業事例集」には、自治体のスクールバスや公共交通を活用して地域クラブ活動への参加を支援する取組が複数掲載されています。

課題となる「生徒の移動手段」については、スクールバス活用、保護者相乗り、自転車圏内での活動設定等の選択肢を検討してください。

共同実証事業で補助金獲得と負担軽減を両立するには?

スポーツ庁の実証事業は、広域連携による共同実施の形態で取り組む自治体も多くあります。令和6年度(2024年度)には全国47都道府県の510市区町村で実証事業が実施されており、小規模自治体も多数含まれています(出典:スポーツ庁Web広報マガジン「部活動改革の"現状"と"展望"」2024年12月公開)。

広域連携による共同実証事業の3つのメリット
メリット①:事業運営の負担分散 協議会運営、指導者調整、施設管理などの業務を複数自治体で分担できる
メリット②:複数自治体の知見を活用 各自治体の経験やノウハウを持ち寄り、より効果的な取組が可能になる
メリット③:成功事例の横展開 一つの自治体で成功した取組を他の自治体にも展開しやすい

広域連携で実施する場合のメリットは3つ。事業運営の負担を分散できること、複数自治体の知見を活かした取組ができること、成功事例を横展開しやすいこと——これらが挙げられます。

広域連携による共同実証事業の進め方
第一歩:近隣自治体への声かけ まずは近隣自治体の担当者に連絡を取り、広域連携の可能性を探る
第二歩:広域連携協議会での議題化 既存の広域連携協議会(郡レベル・圏域レベル)で議題として取り上げる
第三歩:都道府県担当課への相談 都道府県の担当課が仲介役となり、圏域内の自治体をマッチングするケースもある

広域連携の進め方としては、まず近隣自治体への声かけから始めましょう。広域連携協議会での議題化や、都道府県担当課への相談も有効です。都道府県の担当課が仲介役となり、圏域内の自治体をマッチングするケースもあります。

実証事業への参加を検討する場合は、「小規模自治体ならではの課題」と「広域連携による解決策」を明確に整理することがポイントです。

小規模だからこそ発揮できる強みとは?3つのポイント

課題だけでなく、小規模自治体ならではの強みにも目を向けましょう。

小規模自治体の3つの強み
強み①:意思決定のスピード 関係者が少ないため、合意形成から実行までが速い。「まずやってみて、改善する」という機動的な進め方が可能。
強み②:顔の見える関係 学校・保護者・地域クラブ・行政の距離が近く、信頼関係を構築しやすい環境がある。
強み③:柔軟なカスタマイズ 地域の実情に合わせた独自のモデルを構築しやすい。「うちの町に合った形」を創ることができる。

強み①:意思決定のスピード

関係者が少ないため、合意形成から実行までが速い——これが小規模自治体の特長です。「まずやってみて、改善する」という機動的な進め方(アジャイル型)が可能になります。

大規模自治体では調整に数か月かかることも、小規模自治体なら数週間で実現できるでしょう。

強み②:顔の見える関係

学校・保護者・地域クラブ・行政の距離が近く、信頼関係を構築しやすい環境があります。形式的な協議会ではなく、実質的な対話ができるのは大きなメリットです。

強み③:柔軟なカスタマイズ

地域の実情に合わせた独自のモデルを構築しやすい点も強み。都市部の成功事例をそのまま適用するのではなく、「うちの町に合った形」を創ることができます。

これらの強みを活かすことで、大規模自治体にはできない「地域密着型」の展開が可能に。小規模自治体だからこそできる形で、子どもたちの活動機会を守っていきましょう。

まとめ

本記事のポイント

  • 小規模自治体は指導者・施設・マンパワーの3つの構造的課題に直面する
  • 広域連携による指導者シェアリング、施設シェアリングで課題解決が可能
  • 共同実証事業の活用で補助金獲得と負担軽減を両立できる
  • 小規模自治体には意思決定のスピード・顔の見える関係・柔軟性という強みがある
  • 「どうすればできるか」の姿勢で地域密着型の体制構築を目指す

📚 参考文献

※本記事は2025年12月22日時点の公開情報に基づいています。部活動改革に関する制度・ガイドラインは更新される場合がありますので、最新情報はスポーツ庁「部活動改革ポータルサイト」をご確認ください。

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