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【第8回】【部活動地域展開】住民説明会の進め方完全ガイド|保護者からの質問10選と模範回答

📅 2025年12月24日 更新

📌 この記事でわかること

  • 住民説明会を開催すべき3つのタイミングと参加者の選定基準
  • 保護者から必ず出る10の質問と、信頼を得る模範回答
  • 反対意見や批判に冷静に対応するための3ステップフレームワーク
  • 説明会後のフォローアップで住民との信頼を積み重ねる方法

部活動の地域展開に関する住民説明会で、「費用は上がるのですか?」「部活動はなくなるのですか?」と保護者から質問が飛んできたとき、どう答えればよいか悩んでいませんか。

部活動の地域展開を進める上で、多くの自治体担当者が最も緊張するのが住民説明会です。準備不足のまま臨めば、不安や反発を招きかねません。

しかし、説明会は「乗り越えるべき壁」ではなく、地域の理解と協力を得るための貴重な機会です。事前に想定される質問と回答を準備し、対話の姿勢で臨めば、不安を安心に変えることができます。

本記事では、多くの説明会で頻出する質問を整理し、10の代表的な質問と模範回答を紹介します。反対意見への対応フレームワークや、説明会後のフォローアップ方法まで、住民理解促進の実践ノウハウをお伝えしましょう。

※用語について:本記事では文部科学省の表記に準じ「地域展開」を使用しています。旧資料では「地域移行」表記も残りますが、現在は「地域展開」へ整理されています。なお、学校部活動における部活動指導員等の配置や合同部活動等を意味する「地域連携」とは区別されます(出典:文部科学省掲載「『地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議』最終とりまとめ」)。

改革の現在地:制度の枠組みを押さえる

住民説明会に臨む前に、改革の全体像を把握しておきましょう。

改革推進期間(令和5〜7年度)では、国の実証事業等を通じて各地域で様々な実践が積み重ねられてきました。

令和8年度からは改革実行期間がスタートします。前期3年間(令和8〜10年度)・後期3年間(令和11〜13年度)の計6年間が設定されています(出典:文部科学省「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」令和7年12月)。

休日については、改革実行期間内に原則として地域展開を目指し、地域クラブ活動への転換を進めます。ただし、中山間地域や離島など特殊な事情により困難な場合は、当面、部活動指導員の配置等を推進することも示されています。

平日については、各種課題を解決しつつ更なる改革を推進する段階です。国が実現可能な活動の在り方や課題への対応策の検証等を行い、中間評価も踏まえて取組方針が策定されます。平日の在り方は自治体により段階や形が異なります

「地域展開」とは何か:正確な定義を共有する

説明会では、「地域展開」の意味を正確に伝えることが信頼構築の第一歩です。

地域展開とは、学校と地域を二項対立で捉えるのではなく、従来学校内の人的・物的資源によって運営されてきた活動を広く地域に開き、学校資源も含め地域全体で支え、より豊かで幅広い活動機会をつくる取り組みです。

単に「学校から地域へ移す」という意味ではなく、地域に存在する多様な人材や専門的知見を活用しながら、新たな価値を創出することを目指しています。

重要なポイントとして、地域展開後も学校との関係が切り離されるわけではありません。学校施設の活用や、従事を希望する教師等の兼職兼業、学校との情報共有など、学校は地域の一部として引き続き関わりを持ちます(出典:文部科学省「ガイドライン」)。

住民説明会はいつ開催すべき?適切なタイミングと対象者の選び方

住民説明会の成否は、いつ開催するか誰を招くかで大きく左右されます。早すぎれば「決まっていないことが多すぎる」と不信感を招き、遅すぎれば「事後報告だ」と反発を生むでしょう。適切なタイミングと対象者の設定が、円滑な合意形成の第一歩です。

説明会に適した3つのタイミングとは?

説明会の開催タイミングは、推進計画の進捗に合わせて3段階で設定するのが効果的です。

📅 住民説明会の3つの開催タイミング

第1回:方針説明段階(計画策定初期)

地域展開の背景と目的、今後のスケジュール概要を共有。「これから一緒に考えていく」という姿勢を示す段階。改革実行期間の開始を見据え、早めに情報共有を始めることが重要。

第2回:具体案提示段階(実施1年前目安)

受け皿となる地域クラブ活動の候補、費用負担の見込み、移行スケジュールの具体案を提示。質疑応答の時間を十分に確保し、保護者の疑問に丁寧に答える。

第3回:最終確認段階(実施半年前目安)

決定事項の最終報告と、個別相談窓口の案内。不安が残る保護者への個別対応につなげることで、きめ細かなフォローが可能に。

第1回:方針説明段階(計画策定初期)では、地域展開の背景と目的、今後のスケジュール概要を共有します。「これから一緒に考えていく」という姿勢を示す段階です。

改革実行期間の開始を見据え、早めに情報共有を始めることが重要でしょう。

千葉県柏市では、2021年から保護者への周知とアンケートを実施し、費用設定にもアンケート結果を反映しながら準備を進めています(出典:スポーツ庁Web広報マガジン「大規模自治体による部活動改革(千葉県柏市)」)。

第2回:具体案提示段階(実施1年前目安)では、受け皿となる地域クラブ活動(学校部活動に代わり、地域で運営される活動。運営主体は自治体・統括団体・競技団体・民間等、地域の実情により多様)の候補、費用負担の見込み、移行スケジュールの具体案を提示する段階です。

質疑応答の時間を十分に確保し、保護者の疑問に丁寧に答えていきましょう。

第3回:最終確認段階(実施半年前目安)では、決定事項の最終報告と、個別相談窓口の案内を行います。不安が残る保護者への個別対応につなげることで、きめ細かなフォローが可能になるでしょう。

1回で全てを説明しようとせず、段階的に情報を開示することで、保護者の理解と納得を深められます。

参加者の範囲はどこまで広げるべき?

説明会の対象者は、目的に応じて適切に設定しましょう。

必須参加者として、中学校の保護者(部活動に子どもが所属している家庭を優先)と、小学校高学年の保護者(今後部活動に関わる予定の家庭)を招きます。

拡大参加者として状況に応じて、地域スポーツクラブ関係者、学校運動部活動の顧問教員、町内会・自治会の代表者なども含めることを検討してください。

開催形式の工夫も重要です。参加しやすさを高めるため、平日夜間と休日昼間の複数回開催、オンライン同時配信、録画アーカイブの公開なども検討しましょう。

「参加できなかった」という不満を残さない配慮が、後の協力体制づくりにつながります。

保護者から必ず聞かれる10の質問とは?信頼を得る模範回答を紹介

多くの説明会で頻出する質問は、大きく3つのカテゴリに集約できます。それぞれの代表的な質問と、信頼を得るための模範回答を見ていきましょう。

費用や負担についてどう答える?3つの質問と回答例

Q1「費用負担は増えるのですか?」

「現時点の試算では、月額○○円程度を想定しています。ただし、運営形態や活動内容により変動し得るため、確定ではありません。

学校部活動でも道具代や遠征費がかかっていたことを踏まえると、大幅な増加は避けたいと考えています。また、経済的に困難なご家庭向けの減免制度も検討を進めています」

国の方針では、受益者負担の水準について地方公共団体間で大きなばらつきが出ないよう金額の目安等を示すとされています。また、経済的困窮世帯への支援については確実に措置を行うことが求められています(出典:文部科学省「ガイドライン」)。

Q2「送迎の負担が増えるのでは?」

「学校施設の活用も選択肢にしつつ、地域の実情に応じて活動場所・移動負担を設計します。

学校外施設を使用する場合も、公共交通機関でのアクセスや保護者同士の乗り合い支援を検討しています」

Q3「共働きで平日の対応が難しいのですが」

「地域クラブ活動の活動時間は、保護者の就労状況も考慮して設定します。

連絡事項はアプリやメールで完結できる体制を整え、平日に来校いただく機会を最小限に抑える方針です。

なお、平日については自治体により段階や形が異なります。詳細は当自治体の推進計画をご確認ください」

制度の仕組みについてどう説明する?3つの質問と回答例

Q4「学校の部活動はなくなるのですか?」

「一律に"すぐ廃止"ではありません。休日を中心に地域クラブ活動への"展開"を目指していく形となります。

重要な点として、地域展開後も学校は地域の一部として関わりを持ちます。学校施設の活用や、従事を希望する教師の兼職兼業、学校との情報共有など、連携は継続されます」

Q5「希望する部活動が地域にない場合は?」

「現在、地域で受け皿となる地域クラブ活動の確保を進めています。

需要があるにもかかわらず受け皿がない種目については、広域連携(近隣自治体との協力体制)や新規クラブの立ち上げ支援も含めて対応を検討中です」

Q6「教員の負担軽減が目的なら、子どものためではないのでは?」

「教員の働き方改革は目的の一つですが、それだけではありません。専門性の高い指導者による指導、活動種目の選択肢拡大など、子どもにとってのメリットも大きい改革です。

最終とりまとめでは、『部活動改革の主目的は、将来にわたって全ての子供たちが継続的にスポーツ・文化芸術活動に親しむ機会を確保すること』と明記されています(出典:最終とりまとめ)」

安全や指導の質についてどう答える?4つの質問と回答例

Q7「指導者の質は担保されるのですか?」

「当自治体では、国の考え方を踏まえ、研修受講や資格取得を促進し、指導の質と安全管理を担保する方針です。具体的な要件は自治体ごとに設計することとなります。

また、定期的な活動状況の確認や、保護者からのフィードバック収集の仕組みも整備していきます」

Q8「事故が起きた場合の責任は誰が負うのですか?」

「活動中の事故に備え、自治体・運営団体等が適切な保険加入(傷害・賠償責任保険等)を行う想定です。加入主体や補償範囲は運営方式により異なるため、説明会資料で具体的に明示します。

責任の所在を明確にした上で、学校・クラブ・保護者の三者で情報共有できる体制を構築していく方針です」

Q9「部活動で培われてきた教育的価値は失われませんか?」

「協調性や礼儀、目標に向かって努力する姿勢といった教育的価値は、地域クラブ活動でも継承できます。

国の方針でも、「これまで学校部活動が担ってきた教育的意義を継承・発展させつつ、新たな価値を創出することが重要」と明記されています」

Q10「子どもの意見は反映されるのですか?」

「生徒へのアンケート調査を実施し、希望する活動や不安に感じていることを把握した上で計画を進めています。

子どもたちの声を大切にする姿勢は今後も継続していく所存です」

反対意見にどう対応する?冷静に乗り切る3ステップとは

説明会では、時に厳しい反対意見や感情的な発言に直面することもあります。そのような場面でも冷静に対応するためのフレームワークを紹介しましょう。

🎯 反対意見への対応3ステップフレームワーク

ステップ1:まず受け止める

相手の発言を遮らず、最後まで聞く。「ご意見ありがとうございます」「ご不安なお気持ちはよく分かります」と、感情を受け止める言葉を返す。

ステップ2:相手の意図を確認する

「○○というご懸念でよろしいでしょうか」と、相手の意図を確認。誤解がある場合はここで修正でき、相手も「ちゃんと聞いてもらえた」と感じられる。

ステップ3:回答する(または持ち帰る)

回答できる内容はその場で答え、即答できない場合は「持ち帰って検討し、後日ご連絡します」と伝える。その場しのぎの回答は信頼を損なうため、正直な対応が鍵。

説明会資料はどう作る?不安を安心に変える5つの原則

説明会で配布する資料は、保護者の不安を軽減する重要なツールです。以下の5原則を意識して作成しましょう。

📋 説明会資料作成の5つの原則

  • 原則1:専門用語を避ける——「地域展開」「協議会(関係者が集まって話し合う会議体)」などの行政用語は、平易な言葉への置き換え、または注釈の付記が必要
  • 原則2:図解・イラストを活用する——制度の変更点やスケジュールは、文章より図解が効果的
  • 原則3:Before/Afterを明示する——「今まで」と「これから」の並列比較で、変化の内容を具体的に伝達
  • 原則4:FAQ形式を取り入れる——「よくある質問」としてまとめることで、自分の疑問がすでに想定されているという安心感を付与
  • 原則5:相談窓口を明記する——「分からないことがあれば聞ける」という安心感のため、担当課の連絡先を目立つ位置に配置

説明会後のフォローアップはどう進める?信頼構築の3つのポイント

説明会は「開催して終わり」ではありません。その後のフォローアップこそが、住民との信頼関係を左右する重要な要素です。

🤝 説明会後のフォローアップ3つのポイント

ポイント1:1週間以内に議事録・Q&Aを公開する

説明会で出た質問と回答をまとめ、自治体ホームページや学校を通じて配布。参加できなかった保護者への情報共有にも有効。

ポイント2:1ヶ月以内に持ち帰り事項へ回答する

説明会で即答できなかった質問には、必ず期限内に回答。この約束を守ることが信頼構築の基盤となる。

ポイント3:定期的に進捗を報告する

その後の検討状況や決定事項を、広報誌・メール・ホームページ等で定期的に発信。「ちゃんと進んでいる」という安心感が、次の協力につながる。

まとめ

住民説明会は、部活動地域展開への理解と協力を得るための重要な機会です。本記事のポイントを振り返りましょう。

本記事のポイント

  • 改革の責任主体は市区町村等であり、地域の実情に応じた改革方針を決定することを明確に伝える
  • 改革の枠組みを正確に伝える——改革実行期間の位置づけ、休日と平日の扱いの違い、休日についても困難な場合は「部活動指導員の配置等」が選択肢となること、平日の在り方は自治体により段階や形が異なることを説明する
  • 地域展開後も学校は地域の一部として関わる点を強調し、「学校vs地域」の対立構図を避ける
  • 説明会は3段階で開催し、方針説明→具体案提示→最終確認と段階的に情報を開示する
  • 保護者の10の質問を想定し、費用・制度・安全の3カテゴリで模範回答を準備しておく
  • 反対意見には3ステップ(受け止める→確認する→回答する)で冷静に対応する
  • 資料作成の5原則(専門用語回避・図解活用・Before/After・FAQ・相談窓口)を意識する
  • 説明会後のフォローアップまで継続的にコミュニケーションを取り、信頼を積み重ねる

大切なのは、保護者の不安に寄り添い、誠実に対話する姿勢です。すべての質問に完璧な回答ができなくても、「一緒に考えていく」という姿勢が伝われば、理解は少しずつ広がっていくでしょう。

改革実行期間に向けて、説明会後のフォローアップまで含めた継続的なコミュニケーションを心がけてください。

📚 参考文献

※最新の情報は部活動改革ポータルサイトをご確認ください。

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