BUKATSU ONE
自治体向け

【第6回】部活動地域展開の予算確保と財源多様化戦略

📅 2025年1月 更新 👤 BUKATSU ONE編集部

📌 この記事でわかること

  • 国・都道府県・市区町村の財政負担の分担割合
  • 実証事業補助金の申請手順と採択のポイント
  • 企業版ふるさと納税やクラウドファンディングの活用法
  • 補助金終了後の持続可能な財源モデル

「部活動の地域展開を進めたいが、予算の見通しが立たない」——年度末の予算折衝や議会説明で、こうした悩みを抱えていませんか?

指導者への謝金、施設利用料の調整、保険加入、運営体制の構築。いずれも予算なしには実現できません。

本記事を読むことで、国の補助金申請から企業版ふるさと納税の活用、補助金終了後の持続可能な財源モデルまで、自治体の財源確保に必要な全体像を把握できます。

結論として、実証事業補助金を活用した立ち上げ期の財源確保に加え、受益者負担・公費補助・企業協賛を組み合わせた「ハイブリッドモデル」の構築が、多くの自治体にとって現実的な解となります。

国は令和8年度(2026年度)からの改革実行期間に向けて、実証事業補助金をはじめとする複数の支援策を用意しています。本記事では、自治体の財政担当者・教育委員会担当者が押さえておくべきポイントを解説します。

誰がいくら負担する?国・都道府県・市区町村の役割分担

部活動地域展開における財政負担は、国・都道府県・市区町村がそれぞれの役割に応じて分担するという考え方が基本です。

国は政策の方向性を示し、ガイドラインの策定や補助金による財政支援を担います。都道府県は広域調整を担い、指導者人材バンクの運営や市区町村への技術的支援を行う立場。そして市区町村は実施主体として、協議会の運営、地域クラブへの委託費、施設開放に関する経費などを負担します。

財政負担の割合については、部活動指導員配置事業を例にとると、予算資料において国1/3、都道府県1/3、市区町村1/3という分担モデルが示されています(出典:文部科学省「部活動指導員配置促進事業」、スポーツ庁「令和6年度予算(案)主要事項」)。ただし、この割合はあくまで一つのモデルケースであり、実際の負担割合は事業内容や自治体の予算措置によって異なります。

💰 財政負担の分担モデル(部活動指導員配置事業の例)

負担主体 負担割合 役割
1/3 政策方針の策定、補助金支援
都道府県 1/3 広域調整、人材バンク運営、市区町村支援
市区町村 1/3 実施主体、協議会運営、地域クラブ委託

※あくまで一つのモデルケース。実際の負担割合は事業内容や予算措置により異なります

では、公費と受益者負担のバランスはどう考えればよいのでしょうか。

地域展開後の活動費用は、参加する生徒・保護者が一定の会費を負担することが想定されています。しかし、経済的に困難な家庭への配慮も欠かせません。「どこまでを公費負担とし、どこからを受益者負担とするか」という線引きの考え方は、各自治体の推進計画の中で明確にしておく必要があります。

510自治体が活用した実証事業補助金の申請実務

スポーツ庁・文化庁は「地域スポーツクラブ活動体制整備事業」「地域文化クラブ活動体制整備事業」として、部活動地域展開に取り組む自治体への補助金を用意しています。

令和5年度(2023年度)には339市区町村、令和6年度(2024年度)には510市区町村と採択数は着実に増加。多くの自治体がこの補助金を活用して地域展開の基盤づくりを進めています(出典:スポーツ庁「部活動改革の"現状"と"展望"」)。

📊 実証事業補助金の採択状況

339
令和5年度
(2023年度)
510
令和6年度
(2024年度)

採択自治体数は着実に増加傾向

補助金の対象経費と補助率の詳細

補助対象となる経費は多岐にわたります。具体的には、指導者への謝金・報酬、指導者研修費用、施設使用料、保険加入費用、コーディネーター人件費、広報・周知活動費など。

補助率は事業内容によって異なります。実証事業は国の定額補助を基本としており、具体的な補助額は申請件数や事業内容に応じて決定されます(出典:スポーツ庁「令和6年度予算(案)主要事項」)。

ただし、実証事業2年目以降は、受益者負担や行政・関係団体の自主財源からの支出、企業等からの寄付などを組み合わせることが求められます。なお、施設の大規模整備費用など、一部の経費は補助対象外となる点に注意が必要です。

✓ 補助対象となる主な経費

  • 指導者への謝金・報酬
  • 指導者研修費用
  • 施設使用料
  • 保険加入費用
  • コーディネーター人件費
  • 広報・周知活動費

採択されるための申請書作成のポイント

申請スケジュールは毎年度異なりますが、過去の実績では3月から4月にかけて募集が行われ、5月から6月頃に採択結果が発表される流れが一般的です(出典:スポーツ庁「部活動改革ポータルサイト」各年度募集要項)。

採択されやすい申請書には、いくつかの共通点があります。

まず、地域の課題分析が具体的であること。少子化の進行状況や部活動の現状を数値で示し、なぜ地域展開が必要なのかを明確に説明できている申請書は評価されます。

次に、関係団体との連携体制が明確であること。学校、スポーツ協会、総合型地域スポーツクラブ、民間事業者など、どの団体とどのような役割分担で進めるのかを具体的に記載することが重要です。

また、成果指標(KPI)が定量的に設定されていること。「地域クラブ参加生徒数」「指導者登録数」など、数値で測定可能な目標を設定しましょう。

そして最も重要なのが、補助金終了後の自走計画が示されていることです。補助金はあくまで「立ち上げ支援」——終了後にどのような財源で事業を継続するのかを明確にする必要があります。

申請前には、都道府県の担当課への事前相談を強くお勧めします。申請書の書き方や地域の先行事例など、有益な情報を得られることも少なくありません。

📝 採択されやすい申請書の4つのポイント

1
地域課題が具体的
少子化データ、部活動数など数値で明示
2
連携体制が明確
関係団体の役割分担を具体的に記載
3
KPIが定量的
測定可能な数値目標を設定
4
自走計画がある
補助金終了後の財源を明示(最重要)

企業版ふるさと納税で地域展開の財源を確保する

補助金以外の財源として注目されているのが、企業版ふるさと納税(正式名称:地方創生応援税制)です。企業が地方自治体の地域活性化プロジェクトに寄付すると、法人関係税の負担が軽減される制度で、部活動地域展開を「地域再生計画」に位置づけることで対象事業とすることが可能です。

国が認定した地方公共団体の地方創生プロジェクトに対して企業が寄付を行った場合、損金算入による軽減効果(約3割)と税額控除(最大6割)を合わせると、最大で寄付額の約9割が軽減されます(出典:内閣府「企業版ふるさと納税ポータルサイト」)。

💴 企業版ふるさと納税の税軽減効果

100万円
寄付額
約10万円
実質負担
税軽減の内訳:
・損金算入による軽減効果: 約30%
・税額控除: 最大60%
合計: 最大約90%の軽減

企業にとっては、実質負担が寄付額の約1割に抑えられる点が魅力。社会貢献活動として取り組みやすく、SDGs・ESGへの取り組みとしてPR効果も期待できます。

実際に、長崎県長与町では企業版ふるさと納税を活用し、部活動地域展開に必要な指導者の質の確保・向上に資する教育プログラムやアスリートを活用した研修会等を実施しています(出典:内閣府「企業版ふるさと納税ポータルサイト」長与町プロジェクト)。

ただし、注意点もあります。返礼品の提供は禁止されており、また企業の本社所在地の自治体への寄付は対象外です。

成功の鍵は、地域の企業との関係構築にあります。部活動の地域展開が地域の子どもたちの成長にどう貢献するのか、企業にとってどのような意義があるのかを丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。

寄付・クラウドファンディングという第三の選択肢

補助金や企業版ふるさと納税以外にも、個人寄付やクラウドファンディングという選択肢があります。

個人寄付については、ふるさと納税の活用が考えられます。部活動地域展開の取り組みを使途の選択肢として設定することで、全国から支援を募ることが可能に。また、自治体独自の寄付条例を整備し、寄付を受け入れやすい体制を構築することも有効です。

クラウドファンディングについては、自治体主導型(ガバメントクラウドファンディング)の活用が広がっています。

埼玉県白岡市では、休日の部活動の地域移行を進めるにあたり、クラウドファンディングや企業版ふるさと納税での寄付を呼び掛けています(出典:スポーツ庁「事例集・全国の取組紹介」)。

埼玉県戸田市も「戸田市から日本の教育を変える」をコンセプトに、ふるさと納税を活用したクラウドファンディングを実施しました(出典:スポーツ庁「事例集・全国の取組紹介」)。

🌟 クラウドファンディング成功事例

埼玉県白岡市

休日の部活動地域移行に向けて、クラウドファンディングと企業版ふるさと納税を活用

埼玉県戸田市

「戸田市から日本の教育を変える」をコンセプトに、ふるさと納税型クラウドファンディングを実施

では、クラウドファンディングを成功させるには何が必要でしょうか。

目標設定と広報戦略が重要です。単に「部活動の地域展開のため」ではなく、「地域の子どもたちが専門的な指導を受けられる環境を整えたい」など、共感を呼ぶストーリーを伝えることが効果的です。

地域スポーツクラブが自ら資金調達を行う場合には、自治体が情報提供やPR支援を行うことも考えられます。NPO法人として認定を受ければ、寄付者が税額控除を受けられるなど、寄付を集めやすい環境を整えることも可能です。

注意すべき点は、単発の資金調達に終わらせないこと。寄付者との継続的な関係構築を意識し、活動報告や感謝の伝達を丁寧に行うことで、次の支援につなげていくことが大切です。

補助金終了後を見据えた持続可能な財源モデル

国の実証事業補助金はあくまで「立ち上げ支援」であり、補助金終了後の自走——つまり補助金に頼らず自立的に運営を継続すること——が前提です。補助金期間中から、持続可能な財源モデルを検討しておく必要があります。

持続可能な財源モデルは、大きく3つのパターンに分けられます。

🔄 3つの財源モデル比較

モデル メリット デメリット
受益者負担モデル 自立的な運営が可能 会費高額化で参加者減少リスク
公費負担モデル 安定性が高い 財政状況による予算削減リスク
ハイブリッドモデル
(推奨)
バランスに優れる、リスク分散 複数財源の管理に手間

※多くの自治体ではハイブリッドモデルが現実的な選択肢

第1のパターンは「受益者負担モデル」。参加費・会費を主財源として地域クラブの運営費を賄う仕組みです。このモデルでは、低所得世帯向けの減免制度を併設することが重要。経済的な理由で活動を諦める生徒が出ないよう、セーフティネットを用意しておく必要があります。

第2のパターンは「公費負担モデル」。一般財源からの継続的な予算措置により、教育予算やスポーツ振興予算として地域クラブを支援します。公費負担の意義を議会や住民に説明し、理解を得ることが求められます。

第3のパターンは「ハイブリッドモデル」。受益者負担と公費補助、企業協賛などを組み合わせることで、安定的な財源を確保します。多くの自治体では、このハイブリッドモデルが現実的な選択肢となっています。

それぞれのモデルにはメリット・デメリットがあります。

受益者負担モデルは自立的な運営が可能な反面、会費が高額になると参加者減少のリスクも。公費負担モデルは安定性が高い一方、財政状況による予算削減の可能性があります。ハイブリッドモデルはバランスに優れるものの、複数財源の管理に手間がかかる点は留意が必要です。

重要なのは、補助金期間中に「自走のための準備」を進めること。指導者の人件費をいくらに設定するか、参加費をいくらに設定するか、公費補助はどの程度見込めるか——これらを具体的に検討し、補助金終了時にスムーズに移行できる体制を整えておきましょう。

まとめ

部活動地域展開の財源確保について、本記事のポイントを振り返ります。

  • 財政負担は国・都道府県・市区町村の分担が基本。部活動指導員配置事業では国1/3、都道府県1/3、市区町村1/3というモデルが示されています
  • 実証事業補助金は令和6年度(2024年度)に510市区町村が採択。採択を目指すには、地域課題の具体的な分析、関係団体との連携体制、定量的なKPI設定、自走計画の明示が重要です
  • 企業版ふるさと納税は最大約9割の税軽減効果があり、地域の企業との関係構築が成功の鍵となります
  • クラウドファンディングやふるさと納税など、補助金以外の財源確保手段も積極的に検討しましょう
  • 補助金終了後の自走を見据えた財源設計が不可欠。受益者負担・公費負担・ハイブリッドモデルのいずれを選択するかは、地域の実情に応じて判断します

財源確保は「制度設計の段階」から検討を始めることが重要です。「予算がないからできない」ではなく「どう財源を確保するか」という発想に転換し、利用可能な支援策を最大限活用しながら、持続可能な地域クラブの運営基盤を構築していきましょう。

なお、次回の記事では「人口3万人以下の小規模自治体が取るべき現実的戦略」を詳しく解説する予定です。

📚 参考文献

取材依頼・PoCパートナーへの申し込み・お問合せはこちらから
お問い合わせ