【第3回】【部活動地域展開の課題】地域クラブ活動が直面する4つの壁と乗り越え方
📌 この記事でわかること
- スポーツ庁調査で明らかになった4つの主要課題とその深刻度
- 学校部活動と地域クラブ活動の責任・保険・安全管理の決定的な違い
- 災害共済給付からスポーツ安全保険への移行で何が変わるか
- 地域格差・経済格差にどう対応しようとしているか
「部活動の地域展開は良いことだと聞いたけれど、本当にうまくいくの?」「うちの地域でも実現できるの?」——そんな不安を感じている方は多いのではないでしょうか。
部活動地域展開は理想的な制度に見えますが、実際の現場では多くの課題に直面しています。2024年度(令和6年度)に実証事業を実施した510自治体を対象としたスポーツ庁の調査では、約7割が「指導者の確保」に頭を悩ませ、約6割が「収支の見通し」に不安を抱えているという結果が出ています(出典:スポーツ庁「最終とりまとめ」)。
この記事では、スポーツ庁の全国調査データをもとに、地域クラブ活動が直面する4つの主要課題と、国・自治体が示す解決の方向性を解説します。また、学校部活動から地域クラブ活動への移行で「何がどう変わるのか」についても明確にします。
特に責任の所在や保険の仕組みの変化は、保護者や指導者が最も気になるポイントでしょう。課題を正しく理解することが、不安の解消と適切な準備の第一歩です。
部活動地域展開の課題を今知るべき3つの理由とは?
部活動地域展開は2026年度(令和8年度)から「改革実行期間」が本格的にスタートします。国の計画では、令和13年度までの6年間(前期:令和8〜10年度、後期:令和11〜13年度)を改革実行期間と位置づけ、「休日の活動」について原則地域展開の実現を目指しています(平日は地域の実情に応じて段階的に推進)。
しかし、「制度はできた、あとは各地域で頑張ってください」という状況ではありません。実証事業に参加した自治体からは「想定以上に難しい」という声が多数上がっています。
課題を事前に知ることには、大きく3つのメリットがあります。
まず、自分の立場でどんな困難が予想されるか分かるということ。自治体担当者、学校関係者、保護者、指導者など、それぞれの立場で直面する課題は異なります。
次に、国や先進自治体がどう対応しているかを知り、解決策のヒントが得られること。すでに地域展開を進めている自治体の事例から学ぶことで、同じ失敗を避けられます。
そして、「うちの地域だけの問題」ではなく全国共通の課題だと理解できること。不必要な不安を減らし、冷静に対策を考える土台になります。
この記事で示す4つの課題は、どれも「あなたに無関係」ではありません。保護者なら費用負担や安全管理、教員なら連携の手間、指導者なら報酬や身分保障に直結します。
まずは「何が課題なのか」の全体像を把握しましょう。
※なお、国は新たなガイドラインを令和7年冬頃を目途に改訂予定としており、今後の動向にも注目が必要です。
スポーツ庁調査で判明した4つの主要課題とは?
2024年度(令和6年度)にスポーツ庁が実証事業実施自治体510団体を対象に行った調査結果から、地域クラブ活動の実現を阻む4つの主要課題が浮かび上がりました(出典:スポーツ庁「最終とりまとめ」)。
それぞれの課題について、具体的なデータとともに見ていきましょう。
課題①:なぜ72%の自治体が指導者確保に苦しんでいるのか?
実証事業実施自治体の72.0%が「指導者の量の確保」を最も困難な課題として挙げています。これは4大課題の中で最も深刻度が高い問題です。
なぜ指導者が不足するのでしょうか。
教員が兼職兼業(本業以外の仕事を掛け持ちすること)で地域指導者になるケースは想定より少なく、本業への影響を心配する声が多く聞かれます。地域の有資格者にとって、平日夜間や休日の指導時間確保は容易ではありません。
報酬水準も見逃せない要因でしょう。時給2,000〜3,000円程度では専業として生活できず、副業としての魅力も限定的。さらに少子化による競技人口減少で、競技経験者自体が地域にいないケースも増えています。
この課題は各関係者に次のような影響を与えます。
保護者にとっては「希望する競技の指導者がいない」ために活動が開設されない可能性があります。地域クラブにとっては指導者を確保できず事業化できないリスクが。自治体にとっては指導者バンク登録者が集まらないという悩みにつながります。
【対応の方向性と相談先】
国は指導者バンクの整備支援や、教員の兼職兼業に関する手続き簡素化を推進しています。先進事例として、茨城県つくば市では地域のスポーツ指導者資格保有者を対象にした説明会を定期開催し、人材発掘に成果を上げています。
指導者確保にお悩みの場合は、都道府県の広域スポーツセンターや体育協会へご相談ください。
課題②:なぜ59%の自治体が収支構造に不安を抱えているのか?
59.3%の自治体が「持続可能な収支構造の構築」が難しいと回答しています。補助金終了後の自立運営への不安が大きいのが現状です。
なぜ収支が成り立ちにくいのでしょうか。
会費収入だけでは指導者報酬・施設利用料・保険料をカバーしきれないのが実情。実証事業は年度ごとの予算で実施されており、改革実行期間(令和8〜13年度)の中で、国・自治体の負担のあり方(受益者負担とのバランス)を検討していく整理になっています。
低所得世帯への減免措置は収益性悪化とのジレンマを生みがち。企業スポンサーや寄付金の獲得ノウハウを持たない団体も多く、新たな収入源の確保に苦戦しています。
この課題の影響として、保護者にとっては会費が高額になり経済的に参加できなくなる恐れがあります。地域クラブにとっては赤字運営が続き事業継続できないリスクが。自治体にとっては補助金依存から脱却できず財政を圧迫する可能性があります。
【対応の方向性と相談先】
スポーツ庁は受益者負担と公費負担のバランスに関するガイドラインを示しています。先進事例として、新潟県長岡市では複数の競技を統合運営することでスケールメリット(規模を大きくすることで得られるコスト削減効果)を活かし、収支の安定化を図っています。
収支モデルの構築については、日本スポーツ協会や各競技団体が相談窓口を設けています。
課題③:なぜ50%の自治体が住民・保護者の理解促進に苦労しているのか?
49.8%の自治体が「保護者・生徒への普及啓発・理解」が得られないと回答しています。制度の誤解や不安が根強いことがうかがえます。
よくある誤解として、「学校部活動が完全に無くなる」というものがあります。国の方針としては学校と地域の連携・協力を重視していますが、具体の運用(学校部活動との併存、種目数、活動日数等)は自治体の推進計画によって異なります。お住まいの地域の状況を確認することが大切です。
「費用負担が激増する」という心配も多いですが、減免措置や補助金による配慮が検討されています(ただし、制度の内容は自治体によって差があります)。「地域移行」という旧用語のイメージから「学校から地域への完全移管」と誤解されることも少なくありません。現在は「地域展開」という用語が使われ、学校と地域の連携・協力を重視する方針に変わっています。
なぜ理解が進まないのでしょうか。
自治体からの説明機会の不足が大きな要因でしょう。メディア報道が断片的で不安を煽りがちなことも一因です。何より「自分にどう影響するか」が具体的に分からない——この声が多く聞かれます。
【対応の方向性と相談先】
スポーツ庁は「部活動改革ポータルサイト」を開設し、正確な情報発信に努めています。先進事例として、埼玉県では保護者向け説明動画を作成し、各学校で視聴できる体制を整えました。
制度に関する疑問は、お住まいの自治体の教育委員会やスポーツ振興課にお問い合わせください。
課題④:なぜ46%の自治体が学校と地域の連携に悩んでいるのか?
45.5%の自治体が「自治体・学校と運営団体・実施団体の連携体制の構築」に課題を感じています。
なぜ連携が難しいのでしょうか。
学校と地域クラブで指導方針が異なる場合があります。学校は教育重視、地域クラブは競技成績重視——この違いが生じやすいのです。生徒の活動状況や体調を共有する仕組みの欠如も問題といえます。
施設利用スケジュールの調整に時間がかかるケースも少なくありません。教員が「連携業務が増えて負担軽減にならない」と感じることも。これでは働き方改革の本来の目的と矛盾してしまいます。
連携不足で起きる問題として、生徒が学校生活と地域活動の板挟みになることがあります。大会引率や安全管理の責任が曖昧になるリスクも。施設利用のダブルブッキングや利用料金のトラブルも報告されています。
【対応の方向性と相談先】
国は「地域クラブ活動ガイドライン」で学校と地域クラブの連携のあり方を示しています。先進事例として、静岡県掛川市では「部活動地域連携協議会」を設置し、学校・地域クラブ・保護者の三者が定期的に情報共有する仕組みを構築しました。
連携体制の構築については、都道府県教育委員会の担当課へご相談ください。
学校部活動と地域クラブ活動で何が変わる?3つの重要ポイント
課題を理解するには、「学校部活動と地域クラブ活動の何がどう違うのか」を押さえる必要があります。特に重要な3つの変化を解説しましょう。
| 項目 | 学校部活動 | 地域クラブ活動 |
|---|---|---|
| 責任の所在 | 学校の管理下 | 地域クラブの運営団体・実施主体 |
| 保険制度 | 災害共済給付制度 | スポーツ安全保険 |
| 安全管理 | 学校の安全管理基準 | 地域クラブが独自に策定 |
| 指導者 | 教員が中心 | 地域の指導者、民間事業者等 |
| 費用負担 | 学校が基本負担 | 会費制(公費負担・減免あり) |
①責任の所在
責任の所在は、活動が「学校管理下」か、地域クラブが「主催・管理」しているか等の形態によって整理が変わります。
スポーツ庁のFAQでは、「学校部活動は、学校教育の一環として、学校の責任下で行われる活動」であり、「地域クラブ活動は、学校ではなく、地域クラブ活動の運営団体・実施主体が行うものであり、学校部活動とはそもそもの責任主体が異なります」と整理されています。
委託・連携の形態によって法的責任や安全配慮義務の整理が異なる場合があるため、契約・規程・保険加入主体を自治体・学校・クラブ間で事前に明確化することが重要です。
②保険制度
学校部活動では災害共済給付制度(日本スポーツ振興センターが運営する学校管理下の事故を補償する制度)が適用されます。地域クラブ活動ではスポーツ安全保険(スポーツ安全協会が提供する団体向け傷害保険)が主な選択肢となります。
重要なポイントとして、災害共済給付は「学校管理下」の活動が対象であり、スポーツ安全保険は「学校管理下以外」の団体活動が対象です。補償内容や給付手続きが異なるため、詳細は次の見出しで解説します。
③安全管理
学校部活動では学校の安全管理基準に従います。地域クラブ活動では地域クラブが独自の安全管理マニュアルを策定することに。熱中症対策や救急対応の基準が統一されない可能性があり、注意が必要です。
これらの変化により、保護者は「学校が守ってくれる」という前提が崩れることを理解しておく必要があります。地域クラブがどれだけ安全管理体制を整えているかの確認が重要になるでしょう。
災害共済給付制度からスポーツ安全保険への移行で何が変わる?
保護者が最も不安に感じる「保険の変化」について、具体的に解説します。
災害共済給付制度(学校部活動)
対象は学校管理下の活動中の負傷・疾病です。給付内容として、医療費は原則「医療費総額の3/10+療養に伴う費用1/10(合計4/10相当)」として給付されます(条件により取扱いが異なる場合あり)。このほか障害見舞金、死亡見舞金があります。
手続きは学校が一括して申請するため、保護者の負担は軽減されています。共済掛金は学校種別で定められており、保護者と設置者(自治体等)で分担します(例:義務教育諸学校は年額920円、保護者負担割合は4〜6割程度)。
スポーツ安全保険(地域クラブ活動)
対象は学校管理下以外の地域クラブ活動中の負傷・疾病です。給付内容として入院・通院・後遺障害・死亡保険金があり、加入プランによって異なります。手続きは地域クラブまたは個人が申請。掛金は年間約800〜1,850円で、活動内容により変動します(令和7年度時点。令和8年度以降は掛金・補償内容の改定が予定されているため、最新情報をご確認ください)。
スポーツ庁長官からの要請を受け、スポーツ安全協会は2023年度(令和5年度)より補償内容を充実させました。具体的には、災害共済給付制度と同程度の補償となるよう、掛金据え置きのうえで死亡保険金額・後遺障害保険金額(最高)の引き上げを実施しています。
主な違いと注意点
補償範囲について、スポーツ安全保険は原則として「団体活動中とその往復中(通常の経路)」が補償対象です。ただし、遠回り・立ち寄り等は対象外になり得るため、クラブの集合・解散方法や移動ルールの周知が重要です。
また、災害共済給付は「学校管理下」、スポーツ安全保険は「学校管理下以外」が対象という点に注意が必要です。移行期には「学校部活動と地域クラブ活動の両方に参加する生徒」が出ます。どちらの保険が適用されるかは活動の管理主体によって決まるため、学校・自治体・クラブ間で「どちらの管理下か」を文書で明確化しておくことが重要です。
地域格差・経済格差への対応は進んでいる?
地域展開の最大の心配は「地域による差」と「家庭の経済力による差」が拡大すること。国や自治体はどう対応しようとしているのでしょうか。
地域格差への対応
小規模自治体向けには、広域連携モデルが推奨されています。複数自治体で指導者や施設を共有することで、単独では難しい活動も実現できる可能性があります。
人口が少ない地域向けには、オンライン指導の活用や移動支援策が検討されています。スポーツ庁の実証事業では、動画コンテンツを活用した指導支援も試行されています。
文化部への対応も課題です。音楽・美術等の専門指導者確保が困難な地域への支援強化が求められています。
経済格差への対応
低所得世帯向けには、会費減免制度の整備が進められています。就学援助受給世帯等を対象とした支援が検討されています。
自治体補助として、一部自治体では会費の一部を公費負担する動きがあります。送迎支援についても、保護者の送迎負担を軽減する施策が地域によって導入されています。
現状の課題
ただし、減免制度の基準や対象範囲が自治体によってバラバラという問題があります。「地域に活動がない」場合の選択肢が示されていないケースも。障害のある生徒への合理的配慮の具体策も不足しています。
具体の運用(会費・減免・送迎・種目数・学校との併存)は自治体の推進計画等で差が出ます。2026年度(令和8年度)からの改革実行期間に向けて、これらの格差対応策の具体化が早急に求められています。保護者は自分の地域の支援制度を確認し、不足があれば自治体に要望を伝えることが大切です。
まとめ
部活動地域展開が直面する4つの主要課題を振り返りましょう。
- 指導者確保(72.0%):最も深刻な課題で、人材不足と報酬水準の問題が絡み合っている
- 収支構造(59.3%):持続可能な運営モデル構築と、受益者負担・公費負担のバランス検討が必要
- 理解促進(49.8%):制度の正しい理解を広げ、不安を解消する取り組みが求められる
- 連携体制(45.5%):学校と地域クラブの役割分担と情報共有の仕組みづくりが課題
これらの課題は「あなたの地域だけの問題」ではなく、全国の自治体が共通して抱えている構造的な問題です。
大切なのは、課題を正しく理解した上で、「自分の立場で何ができるか」「誰に相談すればよいか」を知ること。ただし、具体の制度設計や運用は自治体によって異なるため、お住まいの地域の最新情報を確認することをお勧めします。
この連載では、今回挙げた各課題について、ステークホルダー別に具体的な対応策を解説していきます。
次回、第4回からは「自治体編」がスタートします。教育委員会やスポーツ振興課の担当者向けに、推進計画の策定方法を詳しく解説します。
📚 参考文献
- スポーツ庁「部活動改革ポータルサイト」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/1372413_00003.htm - スポーツ庁「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」最終とりまとめ(令和7年5月16日)
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/039_index/attach/1420653_00001.htm - スポーツ庁「部活動の地域展開・地域クラブ活動の推進等に関する調査研究協力者会議」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/043_index/index.html - スポーツ庁「FAQ」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/jsa_00017.html - 公益財団法人スポーツ安全協会「学校部活動の地域連携・地域クラブ活動」
https://www.sportsanzen.org/chiikiiko.html - 公益財団法人スポーツ安全協会「加入区分、掛金、補償額」
https://www.sportsanzen.org/hoken/kubun.html - 公益財団法人スポーツ安全協会「補償される団体活動の範囲・往復」
https://www.sportsanzen.org/hoken/faq_span/hosyo_katsudo.html - 独立行政法人日本スポーツ振興センター「共済掛金の額」
https://www.jpnsport.go.jp/anzen/saigai/seido/tabid/92/Default.aspx - 独立行政法人日本スポーツ振興センター「よくあるご質問(医療費関係)」
https://www.jpnsport.go.jp/anzen/saigai/qa/tabid/1900/Default.aspx